ねこ、猫坂へ向かう
もうだいぶまえになるか。
お盆さんのころかな。
一匹の若い猫が、ここを離れた。
イベントの前日、土曜の昼、ツバメ岩辺りの林道沿いにやせ細った彼がいた。
大好きな猫用の煮干と固形の餌をやる。
今日昼前、きゅうに思い立ち、猫坂方面へ車を走らす。
まさか、峠近くの道沿いにいるではないか。
呼んでも近くに来ない。
甘える泣き声は以前より激しい。
好物を見せびらかし何とか呼び寄せる。
余りにやせ細った姿は見るに見かねる。
小さいころ、一番なついて、誰より食べて、たくましくなってきたのに。
ボス猫に締め出しを食ったのか。
遊びなれた軽トラの下でしばしの安堵感。
それにしたって、みんな傷つき傷だらけになりながらでもお互いなんとかいるじゃないか。
かえってコイよ。
どこへ行こうとしてるのか猫坂の峠のほうへ、振り向きもせずやせこけた猫は行く。
十年ももう少し前か、一匹の白い雌猫がこの峠を越えてここへやってきた。
それがこのやせ猫のルーツでもある。